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力学

運動方程式を立てる手順

最後に運動方程式を立てる手順についてお話します。手順というのは、慣れてきたらもちろん省けるところは省いてもらっても構いません。しかし初心者のうちはしっかりとこの手順通りにしてください。車の運転を「さぁ好きにやってごらん。」といきなり言われても出来ませんよね?最初に何をチェックして、次に何をして…という手順はこれまで物理を築き上げてきた先人達が苦労して最も合理的に構築したシステムです。初めて学ぶときはまず体系化されたそのシステムを学ぶべきです。



運動方程式を立てる手順

では手順を示します。

  1. 注目物体Aを決める。
  2. Aに働く力を全て描き込む。
  3. 軸が設定してなかった場合、運動方向へ軸を決め、その軸と直交するようにもう1つ軸を決める。
  4. Aに働く力全てを各軸方向へ分解する。
  5. 各軸方向において、力がつり合っていなかったら運動方程式を立て、つり合っていたら力のつり合いの式を立てる。

となります。では具体例を見ながらやり方を学びましょう。まずは図21をご覧下さい。この図中の小物体$ m$について、力のつり合いの式運動方程式を求めてもらいます。台と小球の間には摩擦はありません。

図 21: 三角台上の運動
三角台上の運動

今回は問題にもあるように小球$ m$に注目することにします。まずはよく図を見ましょう。この物体は糸で引かれることにより、上方へ加速度運動をしています。では注目物体は決めましたので、次に小球$ m$に働く力を全て図示してみましょう。

図 22: 小球に働く力を全て図示
小球に働く力を全て図示

もちろん図22のように全て図示できますよね。力は接触点(面)に働くのでした。ですから、小球のどこが接触しているかを考えると、すぐに糸から$ T$[N]、そして斜面から垂直抗力$N$[N]、そしてもう接触している点がありませんから、例外的に接触しなくても働く力である重力$ mg$[N]を書き込みます。方向を間違えないようにしてください。あくまでも重力は鉛直下向きに働き、決して斜面と垂直方向に働いているわけではありません。

次に軸を書き込みます。問題により$ x$軸が斜面に平行下向きに設定してあるため、あとはこの$ x$軸と直交する$y$軸を図23のようにとります。

図 23: 軸を設定
軸を設定

さて、軸を設定するところまでは簡単に出来ましたね。今回は$ x$軸が設定してありましたが、実際の問題で設定してないときは自分で設定してください。基本的には運動方向(今回は斜面方向)に軸をとった方が計算は楽になります。

ここから問題なく次の「軸方向へ力の分解」が出来ればいいですが、皆さんはどうでしょう?この分解が苦手な人も結構いるのではないでしょうか?もしいましたら分解のところのお話を追加しますので、メールかゲストブックに書き込んでください。

軸と力の両方を見比べると$ T$$ x$軸方向を、$N$$y$軸方向を向いているのが分かりますが、重力$ mg$$ x$軸方向も$y$軸方向も向いていませんね。そこで、この$ mg$$ x$軸方向と$y$軸方向へ分解する必要があります。つまり力のベクトルの分解です。

図 24: 重力の分解
重力の分解

24のように小球に注目して、小球のところに両軸を持ってきて$ mg$の始点と両軸の原点を合わせます。ベクトルの分解は、分解したいベクトルの終点から各軸へ垂線を下ろし(図25)、始点からその交点までのベクトルに分解するという手順を踏みます。

図 25: 重力ベクトルの先から各軸へ垂線を下ろす
重力ベクトルの先から各軸へ垂線を下ろす

両軸の交点である原点から垂線と各軸の交点(垂線の足)まで、ベクトルを伸ばします。

図 26: 分解完了!
分解完了!

あとは$ \theta$に注意しながら、$ x$軸方向へ分解したベクトルの大きさを $ mg\sin \theta$[N]、そして$y$軸方向へ分解したベクトルの大きさを $ mg\cos \theta$[N]と求めて描き込みます。

これを元の図に描き込むと図27のようになります。

図 27: 各力を全て軸方向へ分解完了!
各力を全て軸方向へ分解完了!

ここまででようやく全ての準備が整いました。あとは手順5を実行するのみです。まずは$ x$軸方向をご覧下さい。力がつり合ってませんので等加速度運動をします。運動方向は$ x$軸の負方向です。でも当然求める加速度$ a$[m/s$ ^2$]は$ x$軸正方向へ決めます。ベクトル量の未知数だからですね。

では、$ x$軸方向について、運動方程式を立てましょう。まずは

$\displaystyle ma =$ (11)

でしたね。次に軸方向に注意しながら小物体$ m$に働いている力を式(11)の右辺に書き込みます。力は正方向に $ mg\sin \theta$と、負方向へ$ T$ですので式(11)は

$\displaystyle ma=mg\sin \theta - T$ (12)

となります。もしここから加速度$ a$が知りたくてもすぐに分かりますよね。もちろん $ mg\sin \theta$$ T$のどちらが大きいかという話はしていませんが、$ T$が大きければ加速度$ a$は負になりますし、 $ mg\sin \theta$が大きければ加速度$ a$は正となって、軸の向きに対して正しく加速度の方向が決まるわけです。加速度の方向が決まるだけで、現在移動してる方向…つまり速度が決まるわけではないことに注意してください。

図 28: 加速度の正負の違い
加速度の正負の違い

次に$y$軸方向ですが、当然この方向への運動の変化は無いことがわかります。ですからこの$y$軸方向は力のつり合いの式を解けばよいわけです。

$\displaystyle N=mg\cos \theta$ (13)

ということで、垂直抗力$N$の大きさが $ mg\cos \theta$であることがわかりました。よく垂直抗力$N$をすぐに $ mg\cos \theta$としてしまう人を見かけますが、そういう人はきっと問題が複雑になった瞬間に足元をすくわれます。垂直抗力というのは受動的に発生する力です。押されるから仕方なく発揮する力という感覚です。ですから、まず生じている力を全て描いてから、その後で力のつり合いにより垂直抗力を決定しましょう。

図 29: 垂直抗力のイメージ
垂直抗力のイメージ

ということで、求められる運動方程式は$ x$軸方向へ式(12)、力のつり合いの式は$y$軸方向へ式(13)となります。どうでしょうか?案外簡単でしょ?

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運動方程式と力のつり合いの式の関係

ちなみに、別に力のつり合いの式というのを立てなくても構いません。どういうことかというと、あえて力のつり合いという言葉を使わなくても運動方程式で処理してOKですよ!ということです。とりあえず$y$軸方向へ運動していると仮定して運動方程式を立ててみましょう。

図 30: y軸方向の運動
y軸方向の運動

ここで$y$軸方向を向いている加速度を$ \beta$[m/s$ ^2$]として運動方程式を立てると

$\displaystyle m\beta =$ (14)

ですね。さて$y$軸方向に働いている力を順に見てみると、正方向へ$N$[N]、負方向へ $ mg\cos \theta$[N]です。ですから式(14)の右辺に書き込んで

$\displaystyle m\beta = N - mg\cos \theta$ (15)

となります。物理ではこのように「冷静になって」のような気持ちを結ぶ考えが必要になります。そこに面白さと難しさがあるんでしょうね。ここで冷静になって考えてみるんです。どう考えても$y$軸方向へは加速度運動してないなぁ…と。そうすると加速度運動してないなら$ \beta = 0$だと分かりますよね。そこで式(15)は

$\displaystyle m\cdot 0$ $\displaystyle = N - mg\cos \theta$    
$\displaystyle N$ $\displaystyle = mg \cos \theta$ (16)

となり、力のつり合いの式を解いたのと同じ結果となります。大事なのはy軸方向へ加速度運動していないということに気付くことができる経験?です。

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Copyright (C) F_Master All rights reserved. 更新 Monday, 21.05.2012 10:25 pm

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